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179の応募デザインは、いずれもが大変に個性的。すべてがオーダーメイドであり、世界にひとつだけのオリジナルデザイン。 |
―― : ニットキャップカップ開催のために、大掛かりな準備が必要だったとか?
白倉 : はい。2年ほど前から準備してきました。それは、ニットキャップカップを実現するための、工場ラインを考えることです。工場の構造を変えなければ、ニットキャップカップという企画が、成立しないからです。個別のオリジナルデザインが、量産品のように流れるシステムを構築するために、生産ライン自体を見直しました。これは、地元の長岡市からも援助を受けて進めてきました。今となっては笑い話みたいですけれど、当初は、「エントリー数を、1万まで受け付けます」って言ってました。
田中 : 言ってましたね。ははは。
白倉 : あはは。実際のエントリーは179でしたから、2桁も違いますよね。でも、もともとのシステムの枠としては、そこを目指したんです。僕たちの業界で1万のオリジナルデザインって言ったら、ほぼ無限です。だから、その数は、僕たちの覚悟の表れでもあるわけです。お客さんが言ったことに対して、僕らは一切、断りません、という。
田中 : それが、ニットキャップカップの最初のスタンスですね。
白倉 : そうです。それを実現するためのシステムが工場なんです。なので、それができなければ、僕は嘘つきになってしまう。
田中 : それは、これまでのロットという考え方とは別のものですね。
| 【衣料製品ができるまで】 |
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| 衣料品ができるまでのコストを図式化したもの。工場は、売値の25%で、製品をつくる。つまり、1万円で売られている衣料品は、2,500円の原価でつくられたもの、ということになる。工場は、1枚分だけの原料を仕入れることができず、何トンという単位で仕入れなければならない。そのため、1枚だけのオーダーメイドでは、原料に無駄が出てしまう。工場は効率化を図りたいので、同じ原料で、同じ製品をたくさんつくりたい、と考える。これが、1製品あたりの生産量(生産ロット)を大きくしたい、という工場側の理由。 |
白倉 : そうなんです。工場というのは、生産ロットを考える場所なんです。ひとつの製品を作るときに、1個だけ作ると、とても効率が悪い。まとめて1万個作ってしまおう、というのが工場の考える効率化でした。だから、たくさんのロットが見込めないものは、作らないんです。
田中 : でも、世の中には、たくさんの面白いアイディアがありますよね。
白倉 : そういうものが、工場に潰されてきたんだと思います。実際に、僕も、ロットの効率化の観点から、アイディアをお断りしたことが何度もあります。でも、ここで、それを、一度、やめよう、と。
田中 : ロットの効率化をやめる?
白倉 : 工場の効率化の理屈から言えば、真逆の発想ではあります。でも、それをITインフラと工場のシステムとを併せて、その効率化のハードルを下げるんじゃなくて、ゼロにしようと考えたんです。工場の生産ラインというのは、滞りなくきれいに流れることが前提なんです。その上で、コストが成り立っています。たとえば、流れが滞ってしまって、ある人が待機している時間ができたとします。そうすると、その人件費が製品に上乗せされることになります。
田中 : 無駄が生まれないように、美しい流れを作る必要がある、ということですね。
白倉 : そうです。もちろん、一人の人が複数の工程に関わるようにすれば、手が空いたときに、他の工程を手伝うことで無駄が生じないようにする、という方法もあります。これは、工房化ですね。つまり、昔に戻るということです。このシステムは、小ロットへの対応が可能となりますが、組織は小ぶりなものとなって、大規模な設備投資ができにくくなります。
| 【「工房」と「工場」の違い】 |
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| 工房(左図)は、職人の手づくり。Aさんが、すべての工程に携わって、製品を完成させる。工場(右図)は、分業生産ライン。Aさん、Bさん、Cさんが、それぞれの専門の工程を受け持ち、連携して製品を完成させる。 |
田中 : 工房化せずに小ロットの製造を可能にする方法は?
白倉 : ラインは動いていて、生き物のようです。その流れをコンピュータ化してしまう。青いキャップを作っている流れの中で、次の赤いキャップを作る準備をし、切り替えるタイミングを判断する。それを、1万回くり返すシステムを作ったわけです。これによって、量産体制の流れを崩すことなく、流れているもの自体は1つ1つオリジナルのもの、という生産ラインが実現するわけです。
| 【ニットキャップカップの製造ライン】 |
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| 工場の分業生産ラインの前に、データ処理とスケジュール管理という複雑なプロセスを、コンピュータにより自動化した。これにより、「流れ作業でありながら、ひとつひとつが違うもの」をつくる、ということが可能となった。 |
田中 : 車の製造ラインなどで、ある程度決まったデザインの中から選択して、組み合わせるというものはあります。でも、完全にオリジナルのデザインに個別に対応しながら、しかも量産体制を崩さないというのは、革新的なことです。
田中 : 大手メーカーのような大量生産の枠を持たないと受注できない、販売できない、というシステムとはまったく逆。ロットではなく個別に対応する。大量消費から個人ニーズへ、という時代の流れにも合致していますね。
白倉 : 極端な話。個人がデザインのデータを工場のシステムにアップロードすると、それが作られて、手元に届く。そんな時代がきてもいい、と思っているんです。オーダーメイドって、職人の世界だけのように思われているけれど、工場のシステム化が進めば、そういう未来も夢じゃないと思うんです。人の望みはどんどん多様化していく。だから、ロットという、1つにまとめて、その1つの製品で対応しようという考え方は破綻する。人間の欲望というか、市場から、そっぽを向かれる。そういう時代だからこそ、すべての物を効率的に作るという姿勢が、工場にとっては大切だと思うんです。すごく当たり前のことなんですけれど。
―― : これまでの時代は、大量生産によって効率化を図ってきたが、これからは別の形の効率化を作り出していくということ?
白倉 : そうです。効率化を無視するのは、工場としては間違えている。そこを無視するのは、後退だと思います。効率化を維持しながら、個人への対応を考えるべきなんです。その先にこそ、新しい未来の形があると思うんです。
(2007年9月19日 東京千代田区co-lab内にて)
◎Vol. 1: プロセスアートとしてのニットキャップカップ
ニットキャップカップが提示する、ファクトリーとアートの関係性とは?
◎Vol. 2: 新しい生産ラインが支えるニットキャップカップ
ニットキャップカップを実現するために構築した、新しい生産ラインとは?
◎Vol. 3: コミュニティの本質を探るニットキャップカップ
ニットキャップカップの背後にこめられたコミュニティの本質とは?